「ツィーグラー,K.(1898~1973)」(ドイツの有機化学者)

■化学賞(1963年 受賞)

【経歴】

1898年11月26日カッセル付近のヘルサに生まれる。1923年マールブルク大学にて化学の博士号取得。27年ハイデルベルク大学教授(化学)。36年ハレ・ザーレ大学化学教室主任。43年ミュールハイム・ルールのカイザー・ウィルヘルム石炭研究所所長。47年アーヘン工業大学名誉教授。63年ノーベル化学賞受賞。73年8月12日ミュールハイムのルールで死去(享年75歳)。

【受賞理由となった業績や活動】

★〔受賞理由〕

「高分子物質の製造と技術における業績」により、1963年G.ナッタとともにノーベル化学賞を分かちあう。

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★〔その業績や活動〕

カール・ツィーグラーの最も顕著な研究業績は、1953年の「ナトリウムアルキル」や「カリウムアルキル」などの高分子をつくる新方法の発見にある。

それより前の1933年にも、「希釈法」という独創的な方法を用いて、多環状化合物の合成に成功していたのだ。

そんな独創的なツィーグラーが、ノーベル賞につながる発見をしたのが、有機金属化合物をある種の金属と混ぜることで、エチレンを常圧で重合させ、それにより高分子物質が生成されるというものだったのである。つまり、低圧の状態であっても、エチレンを重合できる「触媒」を見出したのだ。

「触媒」というのは、それ自身は変化をしないが、他の物質の化学反応の速度に著しい影響を与える物質の総称のこと。つまり、化学反応が起こるキッカケをつくる物質のことである。

イタリアの化学者G.ナッタは、ツィーグラーが開発した触媒をさらに改良し、これでプロピレンを重合し、メチル基がすべて同一の方向に向いている重合体をつくりだすことなどに成功した。要するに、合成がうまくいったのだ。

この触媒は2人の名前をとって、「チグラー・ナッタ触媒」と呼ばれている(ここでは、この触媒の名として一般に呼び習わされている「チグラー」に従った)。2人はこうした業績によって、1963年にノーベル化学賞を受賞したのだった。

★〔「チグラー・ナッタ触媒」はノーベル賞をつくる?〕

「チグラー・ナッタ触媒」は、現在も化学工業の分野などで重宝されているものである。

実は、日本人の2000年度ノーベル化学賞受賞者である白川英樹も、そのときのノーベル賞に結びつく「ポリアセチレンの重合メカニズムの研究」のために、この「チグラー・ナッタ触媒」を用いていたのだ。

しかも、この触媒の濃度を間違えて使用したことが、(偶然にも)ノーベル賞級の発見とつながったことが語られており、今ではそれが有名なエピソードともなっている。

★〔新発見や発明=(専門的な知識の量 + 努力 + 感性)× 偶然?〕

面白いことに、1956年に来日したツィーグラーもまた、講演の中で「新しい発見は合成樹脂の調査や研究についての何の設備もない研究所で偶然におこった」と語っていた。

しかし、そのように語る両者の、そうした「偶然」も、長年の研究における思索の蓄積があったからこそ、見過ごすことなく、最良のタイミングで手にすることができたとも言えるのだ。

『化学に魅せられて』(白川英樹著)の中では、先のツィーグラーの言葉に答えているかのような、白川の言葉が載っている。

「偶然とは文字どおり、予期できないような時と仕方で予知できないものごとが起こることです。いつ起こるかわかりませんし、いつでもありそうです。しかし、その偶然を認識し、思索を深めて発見や発明につなげるためには、その偶然に出会った人が旺盛な好奇心や深い認知力と洞察力などに富んでいることが不可欠です」

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