「湯川 秀樹(1907~81)」(1949年 物理学賞)

1907年東京生まれ。京都帝大理学部卒、京大講師、阪大講師、同教授を経た後、39年京大教授。43年文化勲章。48年プリンストン高等科学研究所客員教授。49年コロンビア大教授、ノーベル物理学賞受賞。53年京大基礎物理学研究所所長。70年京大退官。81年没。

【受賞理由となった業績や活動】

(研究発表前の「物理学の状況」)

1個の原子の大きさは、およそ1億分の1センチ程度といわれる。その原子の中央にある「原子核」ともなると、さらにその1千万分の1ほどの大きさしかない。

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この小さな原子核の内部には、プラスの電気をもつ「陽子」と、電気をもたない「中性子」という2種類の粒子があることがわかっていた。

しかし、原子核がばらばらにならず、電気的にプラスの陽子を引きとめている、その理由がよくわからなかった。

中性子が何らかの力(相互作用)を及ぼしているのか、あるいは陽子と中性子が「電子」をキャッチボールしながら結合しているのではないのか、など、既知の粒子をもとにさまざまな説明が試みられていた。

だが、いずれも、物理上の計算が合わず、満足な説明ができなかったのである。

(研究の独創性とその後の発展)

このように、原子核がばらばらにならずに、一つに纏まっていられる力(核力)の源を、多くの物理学者は、電子などの既知の粒子に求めようとしていた。

それに対して、湯川の場合は、この核力の源を、まだ発見されていない「未知の粒子」にあると考えたところが独創的であった。

つまり、核力の源を、電子と陽子の中間の質量となる未知の粒子であると仮定すれば、これまでの矛盾が生じることなく、理論的にうまく説明することができたのだ。それゆえに、この仮想粒子は「中間子」と名付けられた。

湯川は、この仮説を1934年11月、東京大学で開かれた日本数学物理学界ではじめて紹介したが、そのときの会場の雰囲気は、「(その仮説の)大胆さと斬新さについていけない」というものだったらしい。

ところが、1937年に米国のアンダーソンという学者によって、宇宙線からその仮想の粒子とよく似た粒子が発見されたことをきっかっけに、新粒子と核力の関係が注目されるようになり、同時に、湯川の「中間子」理論も世界から脚光を浴びるようになったのである。

(受賞業績となった「新理論」)

湯川の「ノーベル賞」受賞業績は、原子核の中の中性子と陽子の相互作用を媒介するものとして、「中間子」という未知の粒子の存在を理論で予測したことにあるが、それは28歳の時に発表した論文(1935年2月)がもとになっている。「素粒子の相互作用について」というタイトルで、英文で「日本数学物理学会記事」に掲載されたものである。

その後、実際に宇宙線の中に予言していた粒子が見つかったことから、湯川の理論は、原子の核力を説明できる新理論であると世界から認められるようになった。そして、1949年、この業績により、ノーベル物理学賞が授与された。

〔まさに「天才は遺伝と環境から作られる」?湯川秀樹の場合〕

湯川は1907年1月、東京・麻布の生まれ。父(琢次)は、当時の農商務省地質調査所に勤務していたが、京大に新設された地理学講座の教授に就任するため、家族とともに京都に移っている。彼がまだ1歳の時のことである。

父母も同居の祖父にしても皆、教養人であり、家庭環境はどこまでも学問的な雰囲気で占められていた。

こうした雰囲気の中で育っていった彼は、高校になってから読んだ『量子論』を、「それまでに読んだ、どの小説より面白かった」と感想を述べるほどの非凡ぶりを発揮するようになるのだ。

〔本人の言葉〕(「新理論」ひらめきの経緯)

「ある晩、私はふと思いあたった。核力は非常に短い到達距離しか持っていない。それは、10兆分の2センチ程度である。このことは前からわかっていた。

私の気づいたことは、この到達距離と、核力に付随する新粒子の質量とは、互いに逆比例するだろうということである。こんなことに、私は今までどうして気がつかなかったのだろう」《『旅人』(湯川秀樹が50歳を機にまとめた自伝)から》

「クイズこれだけは!」

次の設問に、「○か×か」で答えよ。

1.湯川秀樹の研究業績は、『中間子』の存在を理論的に予言したことにある。

2.原子の中央には、「原子核」がある。

3.『中性子』は、プラスの電気をもつ。

4.湯川は『未知の粒子』を『中間分子』と名づけた。

5.湯川は10歳の時に、家族とともに京都に移っている。

6.『核力』とは、原子核を一つに纏めている力のことをいう。

7.28歳の湯川が発表した論文のタイトルは、『素粒子と相互作用について』だった。

答え:1.○、2.○、3.×、4.×、5.×、6.○、7.○

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